| CAPA特別附録「レンズテイスティングBOOK」を読む |
| (やや旧聞となりますが)学研発行のカメラ雑誌「CAPA」の2002年11月号の附録として「レンズテイスティングBOOK」という冊子がついていました。いわゆる「味のあるレンズ」とはなにかを実写結果から追求しようという企画です。
この冊子では、各社を代表する現行の中望遠レンズを集めてポートレイトの作例およびテスト撮影結果からレンズの特徴を浮き彫りにしています。その内容には、私がこれまでDCニッコールの使いこなしのポイントではないかと漠然と考えてきたことと一致する部分があると感じられました。しかし、いまさら同じような内容でWebに掲載してパクリのそしりを受けるのもしゃくなので、この冊子を見ての感想という形で、レンズの味とDCニッコールの使いこなしについて思うところを書いてみることにします。 この冊子で行われているテストの内容はDCニッコール研究室本編でも紹介している「交換レンズマガジン Vol.3」でのテストに手を加えたものです。テスト撮影に使われている装置はCAPA本誌でAF精度や被写界深度などのテストに使っているのと同様のもので、樹木チャートを手前から奥へ2cm間隔で5枚並べ、さらに各チャートの隣に光ファイバーを配置して点光源を作り出しています。ただし、従来は樹木チャートを階段状に直線的に配置していたのに対して「レンズテイスティングBOOK」では、らせんを横倒しにした形(航空機好きの人には「バレルロールの軌跡のような」といえばわかるでしょうか)で配置され、撮影レンズからは半円に見えます。 テストはこの装置を各レンズの開放絞りで撮影したもので、その結果からは以下のようなことがわかります。
このうちレンズの味にかかわるのはおもに2と3のふたつです。 テストでは次のようなレンズが採り上げられています。
また、テスト以外に作例のみで登場するレンズもあります。
さて、テストチャートをざっと眺めたときにひときわ目を惹く一本がありました。コンタックスのN System用プラナー85mmです。解像力といった細かいことを見るまでもなく、ぱっと目に飛び込んでくる立体感が違うのです。そこで子細に他のレンズと見比べてみると、程度の差こそあれ同様の印象を受けるレンズがあるのがわかりました。ミノルタとニコンの85mmです。 |
| 余談は終わりにして、本題に入りましょう。
プラナーの立体感が際だっている感じた理由はなんだろうと考えてみましたが、どうも不思議なことにこのレンズはピント位置より手前側の被写界深度のほうが深く見えます。そしてニッコールとミノルタの85mmも同様です。 一方、立体感を感じなかったレンズの代表はキヤノンのEF85mmF1.2です。このレンズは際だってF値が小さいため被写界深度も極端に浅く、逆にボケの絶対量そのものは大きいため、樹木チャートはピント位置の1枚以外は完全にボケきっています。これが却って立体感を感じさせないのではないでしょうか。 また、テストから立体感を感じたレンズの特徴として、前ボケに2線ボケの傾向があるようです。ただ、前側の2線ボケ=立体感というわけではないようで、たとえばEF85mmF1.8は前側に2線ボケがあるようですがプラナーに感じたような立体感はありません。 前ボケに2線ボケが見られるということは(DCニッコールの特徴から見ても)逆に後ボケはきれいでなめらかになるはずです。そしてこれは球面収差の補正がフルコレクション〜アンダーコレクション気味であることを意味しているものと思います(収差補正の理屈を完全に理解しているとはとても言いがたいので誤解があるかもしれませんが)。 |
| DCリングとの関連性を考える |
| ではいっしょに採り上げられていたDCニッコール135mmF2Dはどうでしょうか。テストは絞り開放で、DCリングをF側2.8にしたものとR側2.8にしたものの2例が掲載されています。つまり解像力優先ではなく、ボケを強調する方向で使われています。 そして このふたつを見るかぎりはNプラナー的な立体感は感じません。とくにR側2.8に設定したほうはピント位置から奥側の樹木チャートにかけてあきらかににじみが見え、ソフトフォーカス的な描写になっています。一方、F側2.8ではソフトフォーカス効果というほどではなく、せいぜいボケが大きいという程度にとどまっています。 私の実写経験からいっても、ソフトフォーカス効果を得るにはリングをR側に設定したほうが効果的なのは確かのようですが、それでも思ったほどの効果はありません。なぜでしょうか? 推測ですが、これはDCリングを設定したあとにピント合わせを行う(本編参照)というのと関係があるような気がしています。これは物理的な因果関係があるという意味ではなく、結果的にソフトフォーカス効果を得にくい原因になっているのではないかということです。 DCリングをセットしたあとフォーカスを合わせると、本来解像力の高いレンズですからピントを合わせたところはそれなりにカリッとした描写になります。一方ソフトフォーカスということばには画面全体がにじむようなイメージがあるので、そのあたりが心理的な差になっているのではないかというのが推測のひとつです。 もうひとつは球面収差そのものの問題です。DCリングをR側にセットして後ろ側のボケをきれいにするということは、収差補正をアンダーコレクション気味にすることだと考えられます。 ということは、被写体の中でも特に重要な部分(ポートレート撮影での目元など)がこの周辺部にあれば、そこは実は後ボケの領域にあり、きれいにボケる=ソフトフォーカス効果が得やすいとは考えられないでしょうか? 実は「レンズテイスティングBOOK」には同様の考え方で撮られた作例がありました。冊子の表紙に使われているアポゾナーT*200ミリによるポートレイトです。冊子の表4(裏側)に載っている、作例のコメントをそのまま引用させていただきます。 被写界深度後方へのボケには2線ボケ傾向が見られるがその分、前方のボケは滲みのある柔らかいボケになる。そこで目に対してほんのわずかに後ピンになるように撮影したもの。シャープな中にも顔の描写には繊細な味がある。 −CAPA2002年11月号特別附録 「レンズテイスティングBOOK」より− ここでは先程の私の推測とは逆に、目元が後ピンになるように撮ったと書かれています。前ボケのきれいなアポゾナーの特徴を活かすためにはポートレイトの肝である目元を前ボケの領域に入れたい。そのタメにはピントをやや後ろ側に持っていくというわけです。 このキャプションやテスト撮影の結果からも、本編で推測した「被写界深度をどう活かすかがDCニッコールの使いこなしの大きなポイント」という判断は間違っていなかったものと考えています。 −以下は「レンズテイスティングBOOK」にはない、まったく個人的な推測です− 実は、個人的に以前から不思議に思っていたことに、ポートレイト撮影でピントをマツゲに合わせるというのがあります。目(瞳)に合わせるというのならわかりますが、なぜマツゲなのかいまひとつ納得できませんでした。筋状に見えるマツゲのほうがコントラストが高くて合焦の確認がしやすいからかとも思っていましたが、今思うにそういう安易な考えではなくホントにマツゲに合わせていたのではないかと考えています。 ボケ味(この場合は後ボケ)のきれいなレンズでマツゲにピントを合わせることで瞳そのものは被写界深度内ながらわずかに後ピン領域に入るので、そのボケあるいは滲みはまるで瞳がうるんだような印象を作り出し、さらにマツゲより後方にある頬やアゴの滑らかさを(時に肌表面の質感をぼかしてまで)強調する。そして手前側に深めにとられた被写界深度は鼻梁の立ち上がる部分をくっきりと見せ、それが印象的な目鼻立ちを作り出すのではないでしょうか。 2002/12/8 |