「とんびにマーラーカオ」

マーラーカオってお菓子を知っていますか?
ふわふわしっとりした、中華風カステラ(蒸しパン?)事。
私はコレが結構好きです。
横浜の中華街で食べたマーラーカオよりも、ヤ●ザキパンとかで出している
日本人向けにアレンジされたのが好きです。
菓子パンコーナーに行って何を買おうか迷った時は、
ほとんどコレを買ってしう。
困った時のマーラーカオ・・・。

その日も私は菓子パンコーナーで、お昼に食べるパンを何にしようか
迷っていました。
実家の海の近くにある大型スーパーの中で、ゆったりしたスペースを取ってある
パンコーナーの前を何度もぐるぐる回りながら、
買いたい物が「コレ」と決められずにいました。
なんだか特に食べたい物もなくって、だけどお腹は空いている・・・
で、結局マーラーカオをカゴの中に。 
それと、小さな缶のお茶を選び、会計をすませました。
私のその日の目的は、そのまま散歩して「近くの海でのんびりする」こと。
実家に帰るといつも行く海沿いの公園は、海に面した部分で
釣りが出来る様になっいる。
晴れた日はいつ行っても、たいてい何人かは釣りをしていいる
のんびりするにはうってつけの場所。
気持ちが疲れたり、何も考えずにぼんやりノホホンとしたい時、
私は海が見たくなる。
そういえば、昔ヒットした「カモメが飛んだ日」という歌にも
そんな歌詞がありましたっけ。
それを作って歌っていた渡辺真智子さんは、その公園から
歩いて行ける距離の所にご実家があります。
たぶん同じ風景を見てその詩を作ったのでしょうね。

公園に入る手前の歩道橋の上から公園全体を見渡したら、
カモメならぬトンビが強い海風を受けて飛んでいました。
ゆっくり、上手に風を受け流して空中で位置をキープしている様子は
ずっと見ていても飽きません。
私が見つめていたのに気が付いたのでしょうか、翼をすぃっと動かして
海に向かったと思ったら旋回して、私のすぐ近くまでもどってきました。
まるで今度はトンビが私を観察するかの様にゆっくり飛んで、
そしてそのまま公園内の事務所の上まで行き、羽根を休めていました。
それを見届けてから、私はなんとなく顔がほころびつつ
歩道橋を渡りきり公園に入って行きました。

平日なので、仕事をもう辞めた様なおじいちゃん達が何人か集まって
日向ぼっこしながらおしゃべりをしていました。
あぁ、もうそれだけでノホホンとしてしまいます。
そんな姿を横目で見ながら、公園の中で眺めがよくって
座れる場所を目指しました。
私は、板張りの、ほんの数段しかない階段を
今日の「ぼんやりスポット」にする事に決定しました。
天気は薄曇りだったれけど、気温は暖かく、多少海風が強くたって
へいちゃらでした。
腰掛けた階段は木製なのでなんとなくぬくぬく感じられたし、
目の前3メートルのトコにある柵の向こうはすぐに海・・・。
これで青空だったら最高なのになぁ・・・って、
前日の大雨の事なんて忘れてる私。
晴れただけでも良しとしなくっちゃなのにね。

沖に浮かぶ船や、無人島、対岸のぼんやりした影・・・
釣りをする人・・・。
ポケットのMDプレーヤーにはCubic U の「Precious」をセットしていた。
イヤホンからはちょっぴりアンニュイなメロディーに合う彼女の声が響く。

暫くぼーーーーっとそれらを眺めてから、お茶の缶を開け一口飲んで、
ふぅ・・・っと息をはく。

たぶんその時、私は何も見ていない様な目をしていたはず。
でも、見ていたのかな、海は。
大きすぎるから意識しなくても目に入ってくるから。
ここに来て、こうする事で、こうする時間が持てる事で
「あぁ、私は結構幸せなんじゃないか?
他の人はなかなかこんな時間を持てないものね。」と、
なんだか自分を納得させます。
そうすると、自然と顔に笑顔が戻ってくる。
これで、今日の目的はほぼ満たされました。

ガサガサと、スーパーの袋から、徳用の(一袋にちっこいマーラーカオが
5個入った)うちの1個を引っぱり出してはむはむ食べ始めました。
甘くてしっとりふわふわのマーラーカオ。
ちぎってははむはむ・・・。
気合いを入れずに食べられるから、ぼんやりとしたい時には
丁度良い食べ物かもしれない。
上に乗ってる干しぶどうが良いなぁ・・・。
海風は潮の香りがして、深呼吸すると余計食べ物が美味しく感じてしまう。
なんでだろ・・・? とか、そんな事を考えつつ、はむはむ・・・。
その時、私の左側に置いておいたスーパーの袋が風に煽られて
倒れそうになりました。
あわてて体を左に傾けながら片手で押さえました。
右手にはマーラーカオを持ったまま・・・・その瞬間、
何か右手に衝撃を感じ「きゃっ!」と、小さく声をあげて
びっくりして振り返りました。
何か茶色いモノが目の端に写りました。
何っっ?! 何が起きたの ?!  あれっ ? 
右手に持っていたはずのマーラーカオが無い・・・・????! ! ! !
ふと、海の上を見るとトンビが私のマーラーカオを掴んで飛んでいました。
あまりの早技にびっくりしてしまい、心臓がドキドキしてました。
MDを止めて周りをキョロキョロしたのだけれど、
今の光景を見ていた人はいない様でした。
あーーー、こんな時、誰かに話したいのに。
こんな事もあるんだぁ・・・。と、残念に思いました。

トンビはホントに上手にマーラーカオを持っていきました。
私の手を傷つける事なく、すごいスピードで滑空しながら
私の親指の爪の部分だけをその足でこづいて、
マーラーカオを離した瞬間ぱっと掴んで持って行きました。
しばらくジンジンしたような変な、でも妙に楽しい感覚が
右手親指にありました。
お茶を飲んで、一息ついて・・・ふふふっ、と小さく笑ってから
トンビの姿を探したら私の斜め上でホバリングしているではないですか。
今度はちゃんと目が合いました。
あきらかに私に催促していました。
今日、初対面なのに・・・なんつー厚かましいヤツ! 
でも、かわいい・・・(笑)
もう一個のマーラーカオを袋から出してトンビの前でちらつかせると、
どーやって取ろうか考えている様でした。
私は一口大にちぎって空に投げました。
なんだかコントロールが悪くて、海へ・・・。
諦めきれないトンビは急降下して水面ギリギリでふわりと浮かび、
海に沈む前のマーラーカオを掴んでいました。
なんか、悪いコトしちゃった気がして今度はマーラーカオを団子状に丸めて
投げやすくして待機してみました。
すぐにトンビが私の所に飛んで来ました。
ホントに3〜4メートルの所まで近づいて待っている。
なんだか楽しくなっちゃって、餌付けに精を出し始める私なのでした。

今度はトンビと目と目で合図しあって?!タイミングをはかり、
ジャストの所にポーンと投げるコトが出来ました。
トンビも捕りやすかった様でナイスキャッチ。
そんな私達を、公園に散歩に来た初老のご夫婦が通りがかりに見ていて、
あまりの見事さに感心して声をかけて来ました。
「何をあげてるの?すごく見事に取っていったね。」
ニコニコとそんな風に言われて、ちょっぴり恥ずかしくなってしまったけれど、
「パンをあげてたの。」と 照れ笑いしつつ答えました。
なんだか、でも嬉しかったな。
こんな不思議な体験が、実際本当に今起こっている事だって
確認出来たみたいで。

その後、何度かトンビにマーラーカオをあげて、トンビがお腹いっぱいになって
催促しなくなった頃、私もそろそろ帰る時間となりました。
時計は三時になろうとしていました。
立ち上がってジーンズをパンパンとはたき、もう一度ぐるりとあたりを
見渡してから出口に向かって歩きだしました。
日向ぼっこのおじいさん達の近くまで来た時、ちょっとイタズラ心が出てきて、
公園の街灯の上にとまっているトンビを見つめてみました。
残りのマーラーカオを思わせぶりにチラチラと振ってみたら、
サァーーッとそこから飛びたって私の近くまで来てくれました。
ぽーーーんとマーラーカオを投げたらちょっと失敗したけど
キャッチして飛んでいきました。
私はニコニコしておじいさん達の方を振り返ってみると、
みんな動きが止まってびっくりしてこちらを見ていました。
クスクス笑いながら公園を後にして私は実家に帰って行きました。
思わぬハプニング?! で、さらに気持ちが軽くなり、
私の足取りもそれに合わせる様に、とても軽かったのでした。
いつかまたあのトンビと会えるかな ?
 でも、きっと覚えてはいないだろうなぁ。
だけど、私はあの公園に行く時には、またマーラーカオを
買って行くんだろぉーなぁ・・・。
ちょっとだけ、不思議なハプニングを期待してね。

1999. 4. 14. とうやまみなえ

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